旅日記 10.3.17 レバノン

レバノン。

ここの人はしぶとい。

なにせ４０００年前からの商人。地元の杉の木で船作って、ナイルに洪水ありと聞けば材木売りに行き、ギリシアが紙が要ると言えばパピルス売りに行き、メソポタミアに祭りあり聞けば紫貝の染料売りに行き、スパイスやら農産物やら珍しいもの買ってきてまた売って商売。

地中海に広がって今のイタリアのシシリアやサルディニア、スペインのマラガやカディス、モロッコのタンジール、そしてチュニジアのカルタゴをローマを脅かすまでに繁栄させたフェニキア人の末裔だ。

商売が栄えると、いろんなやつが集まる。いい加減な自由さとか、ボヘミア感、学問とか音楽だとかファッションだとか食いもんだとかが濃くなってゆくのは４０００年前も同じ。緑も多く、海山の幸に恵まれ、人もギリシャ、ペルシア、トルコ、アラブと混じる。

そんなでレバノンは、昔から周りのいろんな国がちょっかいを出し、戦争に巻き込まれる事も多かったし混合と自由な気風が育った。だからしぶとくないとやってけない。

◆◆◆

前夜のパリは牡蠣とワインの宴会でへろへろ。ぼけた頭でドゴール空港から飛び立つ。
今回はMEA便、レバノンの航空会社。

頭が回らないので迎い酒。レバノンといえばワインもあるが、まずアラク。
透明だけど水を入れるとにごる酒。アブサン、パスティス、ウゾーと兄弟は多い。アニスの香りと甘さが口に広がると、あー地中海系にきたなあと思う。つまみに地元製のナッツがついてるのもうれしい。

ナッツも中近東では共通文化だ。イランのピスタッチオとか有名だけど、レバノンもヒヨコマメやらアーモンドやら。空港には大手のナッツ屋が店を構えてるし、田舎ではリヤカーの豆売りに出会う。

アラクとナッツは地中海と中近東の出会いと言えるかも。

◆◆◆

夕刻ベイルート着。なじみの親爺が迎えに来てくれるた。
早速レバノン飯での歓待。早速商売のジャブも入る。さすがだ。

レバノン・ワインもどんどん出る。ぐびぐび。翌日の頭を弱らせる作戦か。さすがだ。

こちらも先方にどんどん飲ませる。びくともしない。くだらないネタで大笑いして盛り上がる。さすがだ。

結局深夜に宿へ。明日も宴会となりそうだ。はぁ、とベッドに倒れこむ。

◆◆◆

時差ボケで6時には目が覚める。
いかん、頭が・・・。

ふらふらしながら朝飯を食いに行く。おかゆが欲しいところだが、ここではFoulを。

Foul(フール）は豆のスープ。豆は大豆系。

これにパセリやトマトやネギの刻んだものをトッピングし、新鮮なオリーブ油とレモンを絞ったものをかける。

このレモンとオリーブ油の組み合わせが最高なのだ。レモンの酸味が頭をシャキっとさせてくれる。

絞りたてのオレンジジュースもごくごく飲む。うまい。

そして地元産の白チーズ。イタリアのモッツアレラともホンジュラスの塩チーズとも近いようで風味が違う。

アラブ・コーヒーで準備完了。親爺との交渉へ。

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・・・うーん、しぶとい親爺。話しまとまらず。昼飯はベイルートから30分ほど北のビブロスへ。
道中、親爺が歴史を教えてくれる。

ビブロスは7000年前には集落が出来、それから交易で栄えた町。

最初はグブラ(Gubla)とかゲバル(Gebal)という名だった。

4000年前ころはエジプトにレバノン杉の輸出し、代わりにパピルス（葦を漉いた紙）や金や絹織物を買ってきてそれをギリシャやメソポタミアに売りさばいたという。

紀元前13世紀あたりにギリシャ人がビブロス（Byblos/Bublos)と名づけたそうだ。ギリシアとの間ではパピルスの交易がトップ。

その後ローマやトルコの領土となり、さまざまな影響が残ったが、その痕跡がビブロスの旧市街と隣接する遺跡に残っている。レバノンにある世界遺産の一つ。

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港を望むレストラン"Lite House"でひるめし。

親爺「ここにくると落ち着くんだよね。フェニキア人が繁栄の中で暮らしていた時代にトリップする感じで」

レバノン料理定番のフンムスやババ・ガヌーシュ、ファトゥーシュ、ホーベスとビールをぐびぐび。
そして新鮮な魚の中から、これまた定番のから揚げを頼む。

そして腹ごなしに遺跡をふらぶら。ギリシャからローマ時代の遺跡は当時の色々な人の交わりを想像させる。

海に面したところに野外劇場があった。

いったいどんな音楽が奏でられたのか、どんな歌が歌われたのか？きっとフェニキアやエジプト、アッシリアやヘブライ、ギリシアや辺境のイベリアの歌までがさまざまに披露されたのだろうか？

モ「親爺、昔の歌はどんなだったろうね。フェイルーズやワディ・エル・サフィみたいないい声で歌ってたかねぇ」

爺「ん？フェイルーズだって？！ 」

フェイルーズはレバノンを代表する歌い手。美空ひばりみたいとも言えるか。
親爺は歌も好きだったのだ。それからはグッと距離が縮まった。

→YouTubeでフェイルーズの"Allamouni"を見る

モ「フェイルーズはなんたってベストだけど、サバァも素晴らしいよね。美人だし」

→YouTubeでサバー/Sabahの"Mawal"を見る

爺「そうだ美人だった。でもずいぶん昔の話だぞ。なんで美人だって分かる？」
モ「YouTubeは昔の映像も見れるから便利だよね。マジーダ・エル・ルミも美人だ」

→YouTubeでマジーダ・エル・ルミ/Majida El RoumiのMaa Jareeda (With A Newspaper)を見る

爺「なんだ、お前は女の歌手の話ばっかじゃねーか、がははは」
モ「そりゃ普通だよ。でもジョセフ・ナシーフとかまさに男にしか歌えないフィーリングで好きだな」

→YouTubeでジョセフ・ナシーフ/Joseph Nassif の"Ma Bhebbik Ya Bayrout"を見る

爺「そうだな、メリーム・バラカットとかも悪くない」

モ「とはいえクラウディア・エル・シェマリは、やっぱかわいいからそっちの話にしよう。　」

→YouTubeでクラウディア・エル・シェマリ/Claudia El Shemali の"Mawal"を見る

爺「ホダは知ってるか？あと最近のならナンシー・アジラム」

→YouTubeでホダ/Hodaの" Estabaht"を見る

→YouTubeでナンシー・アジラムNancy Agram(Ajiram) の "Mashy Haddy"を見る

モ「ミリアム・ファレスも結構良いとおもわないすか？」

→YouTubeでミリアム・ファレス/Myriam Fares の"Wahishny Eh"を見る

・・・

いつの間にかスークの中にあるカフェで音楽談義になった。

親爺は超音楽ファンじゃないが、レバノンの歌からエジプト歌謡や湾岸の音のことを教えてくれる。

そしてその話は、レバノンの歴史や自分の生い立ちの話にまで広がった。

爺「こんな時間か。そうだな、もう午後の打ち合わせは良いだろう。例の話はあの条件で良いぞ。それより夜はベリーでも見に行こう！」

おおやった！またも音楽に助けられる。

地中海に沈む夕日を見ていったん宿に送ってもらう。

爺「じゃ10:00pmに迎えに来る」

あー、10時からメシ？ラテン並みだ・・・。

◆◆◆

10時過ぎのダウンタウンはまだまだこれからという賑わい。

車を止めて歩く。昔の「グリーンライン」。

「グリーンライン」はレバノン内戦の時、キリスト教徒が多くすむ東ベイルートとイスラム教徒が多くすむ西ベイルートを区切る境界線だ。

ここを挟んで砲弾や銃弾が飛び交い、戦闘が繰り広げられた。このライン沿いの建物は骨組みだけの無残な姿となり多くの人が亡くなった。

しかし今は多くの建物が建替えまたは修理され、夜は歩てナイトライフを楽しめるようにまでなっている。

ダウンタウンの中心エトワル広場/ネジュメ広場近くは議会もあり警戒する兵士の姿もあるが、カフェやバー、レストランを楽しむ人たちはリラックスしている。

モスクとキリスト教会が隣り合うように重なる道を歩いてお目当てのレストランKaramに向かう。

店に入ると、アラックの香りがずーんと歓迎してくれる。最高。オーセンティックなレバノン料理を堪能。

フンムス、ババ・ガヌーシュ、タブーリ、ファトゥーシュと定番がまず並ぶ。ファトゥーシュのレモンとスマック（紫色の植物の実の粉。にほんの"ゆかり"のような感じ）の酸味が美味。

バターレフ（batarekh/からすみ)もうまい。魚料理も肉料理もばっちりでレバノン・ワインがまたうまい。

親爺のくだらないネタで大笑い。二人ともかなり酔っ払って来る。
デザートはとても入らずコーヒーを。

爺「さて、次いこうか」

◆◆◆

飲酒運転もものともせず親爺は車をぶっ飛ばし、海沿いのネオン街へ。

ナイト・クラブらしき店が並ぶ。その中のひとつＸＸラウンジとか言うのに入ると（よく覚えていない）、暗いが広い店内の奥にスポットが当たっている。

おー、やってるわ！ベリーダンス！

席に座って爺はジョニー・ウオーカー・ダブルブラックを、こちらはアラックを頼み乾杯。目と耳をステージに向ける。

実に素晴らしい。
踊り手は実に美しい。スタイルも抜群。

生バンドはウードありレクあり、キーボードで軽くベースを効かせてる。あ、カーヌーンまでいるじゃん。

もう一人の踊り手もこれがまた見事。

全身の動きに芯がありつつ、やわらかく、かつ弾力があるのだ。フィー。

爺「片方がエジプト人、片方はレバノン人だ。※：＊＠＋＝＃％※！わははは　」
モ「じゃあ＠＋＝＃％※※：＊＠＋＝だろ？＃％※じゃん！　」
爺「※：＊＠＋＝＃％※！なんと＝＃％※※：！　」

爺・モ「がはははっは」

その後の記憶は分断状態・・・。

気がつくとホテルの入り口に到着・・・。

爺「いやー、面白かったろ＋＝＃％※※：＊。明日は昼12時に迎えに＋＝＃％※※：＊来るからな」

モ「＋＝＃％※※：＊」

部屋でそのままベッドに倒れこんだのは言うまでもない。
４０００年前も、きっとこうしてベッドに倒れこんだ外国人の商人がいただろうなぁ・・・とか思いつつ眠りに落ちたのだった。